2012年2月5日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。

画像省略

カワセミ(写真は他のサイトから引用)



私の家から少し離れたところに小川が流れ、カワセミが良く飛んでくる。その宝石のように

キラキラ光り輝きながら飛行する姿、川の中の小魚を獲って水中から舞い上がる姿を見て

いるだけで、生命の神秘を感じさせてくれる鳥だ。私が出会ったときに特に嬉しいと感じる

鳥、それはカワセミと鷹だ。



でもだからと言って他の鳥が嫌いではない。私も鳥のように自由に空を飛べたらといつも思

う。部屋の窓から見ると、大小いろいろな鳥が飛んでくるが、どの鳥も厳しい自然の中で生

き抜いている力を感じさせてくれる。



しかし同じ鳥でも、カラスはどうしても好きにはなれなかった。鳥類の中でも霊長類に匹敵

する知能を持っているカラスなのだが、死肉をあさるイメージが強いのが嫌いになった原因

かも知れない。その印象を変えたのは、ワタリガラスの伝説を聞いてからだった。



ワタリガラスに限らず、多くの渡り鳥が何故正確に目的地に到達できるのか、それは太陽

や星、星座や地磁気などによって方向を定めることがわかってきている。それに比べ人間

は文明の利器の進歩と引き換えに、自然のサイクルで生きる術や感覚を消去してきたの

ではないかとさえ思ってしまう。



人間が鳥のように逞しく生命の輝きを取り戻すにはどうしたらいいのだろう。



☆☆☆☆



ワタリガラスの伝説 クリンギットインディアンの古老の言葉



今から話すことは、わたしたちにとって、とても大切な物語だ。だから、しっかりと 聞くのだ。

たましいのことを語るのを決してためらってはならない。



ずっと昔の話だ。どのようにわたしたちがたましいを得たか。ワタリガラスがこの世界に森を

つくった時、生き物たちはまだたましいをもってはいなかった。人々は森の中に座り、どうして

いいのかわからなかった。木は生長せず、動物たちも魚たちもじっと動くことはなかったのだ。




ワタリガラスが浜辺を歩いていると海の中から大きな火の玉が上がってきた。ワタリガラスは

じっと見つめていた。すると一人の若者が浜辺の向こうからやって来た。彼の嘴は素晴らしく

長く、それは一羽のタカだった。タカは実に速く飛ぶ。「力を貸してくれ」 通り過ぎてゆくタカに

ワタリガラスは聞いた。



あの火の玉が消えぬうちにその炎を手に入れなければならなかった。「力を貸してくれ」 三度

目にワタリガラスが聞いた時、タカはやっと振り向いた。「何をしたらいいの」 「あの炎をとって

きて欲しいのだ」 「どうやって?」 ワタリガラスは森の中から一本の枝を運んでくると、それを

タカの自慢の嘴に結びつけた。「あの火の玉に近づいたなら、頭を傾けて、枝の先を炎の中に

突っ込むのだ」 



若者は地上を離れ、ワタリガラスに言われた通りに炎を手に入れると、ものすごい速さで飛び

続けた。炎が嘴を焼き、すでに顔まで迫っていて、若者はその熱さに泣き叫んでいたのだ。



ワタリガラスは言った。「人々のために苦しむのだ。この世を救うために炎を持ち帰るのだ」 



やがて若者の顔は炎に包まれ始めたが、ついに戻ってくると、その炎を、地上へ、崖へ、川

の中へ投げ入れた。



その時、すべての動物たち、鳥たち、魚たちはたましいを得て動きだし、森の木々も伸びて

いった。それがわたしがおまえたちに残したい物語だ。



木も、岩も、風も、あらゆるものがたましいをもってわたしたちを見つめている。そのことを忘

れるな。これからの時代が大きく変わってゆくだろう。だが、森だけは守ってゆかなければな

らない。森はわたしたちにあらゆることを教えてくれるからだ。わたしがこの世を去る日がもう

すぐやって来る、だからしっかり聞いておくのだ。これはわたしたちにとってとても大切な物語

なのだから。



(クリンギットインディアンの古老、オースティン・ハモンドが1989年、死ぬ数日前に、クリン

ギット族の物語を伝承してゆくボブをはじめとする何人かの若者たちに託した神話だった。こ

の古老の最後の声を、ボブはテープレコーダーに記録したのだ。)



「森と氷河と鯨」ワタリガラスの伝説を求めて 星野道夫 文・写真 世界文化社より引用



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(K.K)



 




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