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2012年1月27日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。

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「アライバル」ショーン・タン著 小林 美幸 訳 河出書房新社



私は絵本が好きだ。それは言葉ではなく沈黙を介して語ってくることがあるからだ。この「アライバル」

という絵本には一切の言葉はない。丹念に描かれた絵の一枚一枚の世界に、読者は自分の体験や

想像を膨らませ共有していく。



著者の父親はオーストリア出身でマレーシアからの移民だと言う。それを土台にした「アライバル」も

希望が見えない故国に妻・子供を置き見知らぬ国へ旅立つ物語である。いつかきっと再び一緒に暮

らせることを夢見て。



主人公が長い航海の果てに辿り着いた所は全く経験したことがない所だった。言葉・習慣・一風変わ

った動物、奇妙な浮遊体たち。それでも主人公はこの異文化の中で必死に生き抜こうとする。そして

出会った人たちも主人公と同じく故郷を離れなければならなかった人たちだ。



私自身も小・中高生の頃、父親の仕事の都合で転校を繰り返した。親友が出来ても直ぐに別れなけ

ればならなかったが、それを何度も繰り返していくと、友達を作るのが怖くなってしまう。それは同じよ

うな悲しみを二度と味わいたくないという想いが働いたのかも知れない。



この絵本を見ると遠い日の私を見るような気持ちだった。きっと単身赴任で見知らぬ土地へ行った

経験を持った方も、共感を持って本書に見入るかも知れない。



世界各国29の賞を受賞し、世界中に衝撃を与えたこの絵本は私の心にも衝撃を与えた。「生きること」

「生き抜くこと」、そして「希望を忘れないこと」を私はこの絵本から受け取ったように思う。



(K.K)



 



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